2008年5月2日金曜日

石油枯渇3:2010年対策


石油枯渇3:2010年対策
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 いまから40年数年近く昔は、ガソリンは1リッター「45円」くらいではなかったかと思う。
 モペットにガソリンを入れるときの記憶である。
 いまは「140円」から「150円」(税法期限切れで130円前後、復活後20円アップという)。
 3倍ほど。
 高くはない。
 価格的にはあまり変動がない。
 40年前の大卒の初任給が2万円弱、今では20万円くらいか。
 10倍に上がっているとすれば、ガソリンは安定している。

 ということは40年前のガソリンとは「ベラボーに高かった」ということになる。
 マイカーが運転されるのは週に1,2回ほど。消費ガソリンなどいかほどのものでもない。
 車検、登録料、車庫代から比べれば少々上がったところで、微々たるものであり、懐の痛みを感じることはない。
 ガソリンが上り、それに伴って航空運賃が上がっても、旅行費用が高くなったと思うだけ。
 ガソリンが上がったので海外旅行を取りやめようとは誰も考えない。
 180円でも半数の人が車を乗る、と言っているという。
 日本では普通人がさほどにガソリン高を肌に感じることはない。
 ただ、ガソリンスタンドをよく目にするので、「石油は枯渇するのか」と注意するに過ぎない。

 なぜかくもガソリンの値段は安定しているのだろう。
 おそらく、石油が政府のコントロール下に置かれているせいだろう。
 エネルギーの上昇は経済に大きな影響を及ぼす。
 経済それ自体が石油の上に乗っているのがいまの日本。
 そのため、政府は監視し、備蓄し、価格が平準化するよう管理している。
 それができて政府、できなければ政府とはいえない。

 ところが、石油価格をまるでコントロールしていない政府もある。
 ここがそうだ。
 いまから十年ほど前はリッター50セント(50円)を切っていた。50セントだせばどこでも入れられた。まるで40数年前の日本。
 ところがいまは135円から155円を上下している。
 いまの日本と大差なし。
 日本の40数年が10年でやってきた。

 価格は市場任せ。
 そのため世界のオイル価格の変動が財布を直撃する。
 10セントくらいは日々変わる。
 一番安いのは火曜日、それが週末になると間違いなく変動の少ないところで10セント、多いところでは15セントくらい上がる。
 道路を挟んで真向かいにあるスタンドで料金が5セント違うのはあたりまえ。
 日本なら、前のガソリンスタンドが安ければ、対応するスタンドはそれに近づいた価格をつけるのが常識。
 ここではそれがない。
 メーカー毎の仕入れ値に素直に順応しているだけ。
 間違えて高値でいれて、5セント安の看板をみるとあからさまに憤慨してしまう。
 なんと「商売知らず」なのだ、と怒ってみたところで文化の違いではどうにもならない。

 毎日行っていたショッピングセンターを3日に1度はやめようか、という話になる。
 そのショッピングセンターで30ドル(3千円)買い物すると、ガソリン1リッター当たり4セント(4円)割り引きのチケットをくれる。
 さらには、その積み増しで10セント引きができますというカードが出回りはじめている。
 いま、この手のサービスはすべてのショッピングセンターで行われており、そのサービスのないショッピングセンターは客足がパタリと途絶える。
 チケットあるいはカードを持ってガソリンスタンドへいく。
 4セント割引チケットでは30リッター入れても120円しか安くはならない。
 でも何か得した気分になるのが、人の心理。

 たった10年ほどで3倍から3倍半近く高騰した。
 まだまだ上昇するだろうと思われれる。
 落ちる気配はまるでない。
 ときどきの上下動はあっても長期的には落ちるということは考えられない、と誰もが信じている。
 繰り返すことになるが、テレビニュースでは近い将来リッター3ドル(300円)になるだろうと言っている。

 ゆっくりであろうと、なかろうと「上り続ける」と皆が考えている。
 近くのショッピングセンターまで往復12キロ、日本食料品店だと40キロ、デイスカウント酒屋で30キロ、図書館も30キロ。
 何処へ行くのも車。
 月に最低で1000キロは走る。300キロ毎にガソリンを入れるとなると、最低で月3回。
 ガソリンの高さが身にしみる。年間1万2千キロ。
 勤労者は車通勤、それに上乗せされる。2万キロくらいは走る。
 日本のように目の飛び出るほどの車庫代はない。
 それだけに車両費の中に占めるガソリンの比率が高くなる。

 ガソリン価格は市場にまかされている。
 世界のオイルの値段にほぼ連動している。
 個人的なものであり、産業のエネルギーではないのがここの仕組みである。

 基幹エネルギーは石炭と天然ガス。
 発電所の大半は石炭。露天掘り。
 ブルで地面を掬えばバケットに石炭がたまる。
 池島炭鉱のように海の下を掘ることはない。

 つまり、エネルギーはただ同然。
 大型トラックはオートガス。
 すなわち液化ガス。
 天然ガスから取り出している。
 トラック会社はGMでもなければFORDでもない。
 知らない会社、「MAN」と「INTERNATIONAL」のエンブレムをつけている。

 石炭も天然ガスも自国の製品。
 中東諸国ではないがエネルギー大国。
 よって、ガソリンは個人車両専用エネルギー。
 あがろうと下がろうと政府の経済政策に大きくかかわることはない。
 勝手におやりなさい、である。
 政府の管理を離れている。
 だから、その動きが見える。

 身近で単純にして分かることはこういうこと。
 「もし、石油がふんだんに供給されていれば、ガソリンが10年で2倍半も上がりはしない。」
 なぜ、かくも値上がりし続けているのか。

 そしてこれからも値上がりし続けると感じているのか。
 航空ガソリンの値上げはこの国だけのことではない。
 なぜに世界的に石油が値上がっているのだろう。

 Wikipediaの「LPG自動車」によれば

 日本のガソリンや軽油の価格は高いとよく言われるが、日本、米国以外の欧州やアジアの非産油国では(為替や自動車燃料政策的なこともあるが)円換算で「ガソリン1リッター:250円」、軽油は「1リッター:200円」程度が一般的であり、現地価格で「70-100円」のLPG(プロパンガス)、「30-50円」のCNG(圧縮天然ガス)に転換する人々が多い最大の原因ともなっている。


 単純な経済法則からいけば、需要が供給を上回っているからだ。
 もしそうだとしたら、なぜ、「石油は枯渇しません」という産油国は増産しないのか。


 下記のレポートを見ていこう。
 アジア経済研究所の2004年の作成になる。
 研究機関の中間派の報告書。
 エコノミストのようにジャーナリステイックではない。
 こつこつと資料を解析しただけ。
 一つのデータを周囲から見ているため、飛躍もないが、「抜けもない」ので安心していられるのが、この手のものの特色。
 そのため、これに類するテーマではこの報告書は基礎的資料とされている。

 没頭部分を「抜粋」しながらタイプしていきます。

★ 中東産油国の石油埋蔵量評価と生産増大への課題:アジア経済研究所 武石礼司
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Mid_e/pdf/2004_01_tateisi.pdf

 はじめに-本稿のねらい
 中東産油国の「石油埋蔵量評価」に関して、埋蔵量(「確認可採埋蔵量」、以下、特に別途記載しない限り本稿中では埋蔵量をこの意味で用いる)が今後も着実に追加されるとの見方と、追加される量は少ないとの見方の、楽観論と悲観論の二つの考え方が出されており、世界を二分する論争が現在進行中である。
 本稿では、この埋蔵量に関する議論の内容を検討するとともに、中東諸国のうちでも、サウジアラビアなどの大規模石油生産国ではないオマーンなどの中堅規模以下の産油国においては、悲観論が当てはまる可能性が出てきている点を、オマーンの事例を紹介することで確認してみたい。

 続いて、石油生産量と埋蔵量との関係につき検討を加える。
 1900年代前半に欧米ロシアなどで発見された巨大油田は、長く生産を続けてきたために生産量の減退期を迎えている油田が多く存在している。
 中東においても例外ではなく、イランなどの1900年代前半に発見された油田で長く生産を行ってきたところでは生産量が減少し、油田のリハビリと称される老朽化した油田からの再生産により少しでも残存する石油を生産しようとの試みが続けられている。
 埋蔵量に関しては、大型油田の発見が相次ぐことで各国の保有分が増大するが、その後、中小油田の発見が行われても、埋蔵量の増大に与える効果は小さいことを見る。

 さらに、OPECと非OPECの諸国を比べると、生産量に対する埋蔵量の比率はOPECの方が明らかに大きい。
 しかしこれは、主として民間企業が生産を行う非OPEC諸国では、過大な在庫となる石油埋蔵量を持たないように、OPEC諸国に比べると生産量に対する埋蔵量の比率が小さくなっているに過ぎない。
 したがって、将来の追加埋蔵量の多寡により生産量が決まってくる状況は、OPECおよび非OPECとも変わりはないことを確認する。

 しかも、石油価格が高めで推移すると、非OPEC諸国からの増産が進みOPECへの「石油生産増の要請は低下」する。
 逆に、石油価格が低めで推移すると、非OPEC諸国からの生産増が進まず、「OPECは増産を要請」され、少なくなる石油輸出収入から生産設備の増強を行わざるを得なくなる。

 石油価格が高めに推移するかあるいは低めに推移するかが、OPECに対しては低価格での需要増に伴う生産能力増強への要請が生じ、一方、高価格では低生産がもたらされる以上、そもそも低価格での増産、あるいは高価格での生産抑制に耐えられるかという、低価格で生産できる石油埋蔵量を豊富に持つかどうかに依存して、中東産油国は今後生産国として勝ち残れる国と、脱落していく国とが、遅かれ早かれ出現せざるをえなくなるとの予測を提示する。

 最後に、中東産油国において産油量の減少がはっきりと現れる諸国が将来的に出現する可能性が高まっていることは、石油依存の経済構造を維持できなくなる中東産油国が現れ、中東の産油国における経済的な二極分化が生じるとの見通しを提示する。

Ⅰ 石油埋蔵量および生産量に関する楽観論と悲観論
Ⅱ 中東の石油埋蔵量
Ⅲ 中東諸国の石油生産状況
 1.オマーンの石油生産
 2.中東諸国の油田発見
Ⅳ 石油埋蔵量と石油生産量
 1.生産の継続と生産量維持の可能性
 2.油田生産量の減退
 3.油田の発見と生産量の推移
 4.油田からの石油生産量の推移
 5.油田からの石油生産の傾向
Ⅴ 中東諸国の石油生産量
 1.中東諸国の石油生産の特徴
 2.悲観論に基づく中東諸国の石油生産予測
 3.楽観論に基づく中東諸国の石油生産予測
 4.悲観論と楽観論の比較検討
 5.埋蔵量の制約から見た生産量予測
Ⅵ まとめ-中東産油国の石油依存と今後の課題



 内容を「抜き読み」で見ていこう。

 「究極可採資源量(埋蔵量)」は下の4つの合計で計算されるという。
A.「累積生産量」:今まで生産された量
B.「確認可採埋蔵量」:現在生産可能として見積もられている量
C.「未発見資源量」:これから発見されるであろうと見込まれる量
D.「埋蔵量成長」:今後の技術的進歩で採掘可能となる増加分

米国地質調査所  キャンベル 石油鉱業連盟
単位:億バレル      2000年   1996年    2002年
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究極可採資源量_________33,450_______17,500_______30,075__
---------------------------------------------------------------
累計生産量______________7,170________7,610________8,495__
確認可採埋蔵量__________9,590________8,000________9,084__
未発見資源量____________9,390________1,890________7,788__
埋蔵量成長______________7,300___________--________4,707__
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 楽観論派(米国地質調査所)、悲観論派(Campbell氏)、中間派(石油鉱業連盟)のデータである。
 悲観派は除いて、楽観派と中間派の差は「10%」ほどである。
 今回(2007年)の石油鉱業連盟の発表は「3兆0380億バレル」であり、上記データの5年前よりわずかに「1%」増えたに過ぎず、ほぼ同量とみてさしつかえない。

 次は世界の石油生産量予測で「単位:万バレル/日」である。
 右の石油価格の見通しは「単位:ドル/バレル」である。

________________OPEC____その他____合計__________石油価格見通__
-----------------------------------------------------------------
2001年実績::__3,040____4,660_____7,700万バレル/日______--__
2005年予測::__3,160____4,910_____8,070____________23.27ドル/バレル
2010年予測::__3,610____5,320_____8,930____________23.99__
2015年予測::__4,140____5,710_____9,840____________24.72__
2020年予測::__4,820____5,960____10,780____________25.48__
2025年予測::__5,560____6,270____11,830____________26.57__

IEO2003より :: Energy Information Administration, DOE, US, International Energy Outlook 2003


 これによると、2001年から2025年までの生産予測は「50%」アップ、そのうちOPECが「80%」アップになっている。
 ところが、石油価格はたった「15%」しか上がらないという。信じられない。
 20年でたった5%、ありえることだろうか。
 もし、これが本当なら確かに石油枯渇の心配などあるはずがない。
 ということは、この10年で2.5倍にも値上がったのは「まぼろし」だったことになる。
 このデータというのは大きな間違いがあるのではないか、と疑ってしまう。

 往々、素人の解釈間違いということもあるので、断定は控えておく。

 2002年の中東主要産油国の一日の生産量は下記のとおりである。
 サウジアラビア「738万バレル」、イラン「345万バレル」、イラク「203万バレル」、UAE「199万バレル」、クエイト「160万バレル」である。ちなみに世界全体の産油量は「6,604万バレル」で中東はその「30%」を占めている。これは「International Retroleum Encyclopedia 2003」からの引用としている。

 これとは別に、2002年のOECDの「IEA」では別のデータを掲げている。
 2000年の数値が異なるようである。算出の方法が違うこともあるので、どちらが正しいともいえない。
 出どこが違うと大幅に中身が違ってくるのが世界統計の常識。
 つまるところ、統計データというのは大まかな傾向を掴むだけのものであまり信用の置けるものではないのかもしれない。

 これは将来の予測も載せている。
 カッコ内のパーセンテージは「中東」の占める割合である。

OECD::  IEA:石油需要供給予測
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2000年::    7,500万バレル/日(28%)
2010年::    8,880万バレル/日(30%)
2020年::   10,400万バレル/日(36%)
2030年::   12,000万バレル/日(43%)

 この数値は前出の「IEO2003, US, International Energy Outlook 2003」とほぼ同じ。


 この報告書、ちょっと読みにくい。
 専門家向きということなのだろう。
 この分かりにくい内容をどうやって分かりやすくするかが、「電子網さんぽ」の仕事。

 いよいよ佳境、「2010年対策」が浮上してくる。



<つづく>




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